Size : H56.0cm×W104.0cm 厳選して、厳選してお店に並べようと決めたものたちだから、ここで紹介するものはどれも私にとって宝物だし、いつも一押しのものばかりです。 それでも時々、信じられないくらい素敵なものに出会ってしまうことがあって、まるで頑張ったことへのご褒美みたいに感じられます。航空券が高かろうがユースホステルで10人部屋だろうがどれだけ背中の荷物が重たかろうが、頭では悩みながらも足を前に運び続ける理由、そして同時に醍醐味です。 5月の旅では、このタペストリーがそんなご褒美のひとつでした。 1933年と中央上部に刺繍されているこのタペストリーは、多色の糸が豊かに使われた、とても贅沢な作り。図案を考えたところから刺し始め、刺し終わり、最後にフリンジで彩り終わるまで、どれだけ長い時間をかけたのだろうと思います。 繁栄と豊穣の祈りを意図したであろう鳥と植物の図案がまず素晴らしいのですが、色使いもとても素敵でため息をついてしまうのに(この色の糸は、現代の技術では出さない色、昔の染色技術にやるものです)、一番驚かされたのは裏面でした。 いわゆるサテンステッチで表現された作品ですが、厳密にはサテンステッチでないことが4枚目の写真を見ていただくとわかります。 サテンステッチなら裏面にも同じ方向に糸が渡されているところが、裏面はまるで星屑の様な点々が。ふんだんに糸が使われているようで、実はとても質素で、必要最低限しか使われていないことを最初は不思議に思いました。 「わざわざ難しい刺し方をしたものだな」と思っていた単純な感想はのちに、たまたま調べていたスウェーデンの鉄道の歴史を紐解くうちにひっくり返されました(ここは長くなるので省きますね)。 今のスウェーデンからは想像もつきませんが、19世紀後半から20世紀初頭のスウェーデンはヨーロッパの貧困国の一つでした。経済危機や食糧不足で1/4もの人口が国外に流出したこともあるほどだそう。 そういえば、9月にスカンセンを歩いた時、庭に建てた小さな小屋と畑の展示説明にも「食糧不足を自給自足で補おうとした」とありました。 このタペストリーは、そんな時代の中で生まれたもの。サテンステッチの様に裏も表も同じように糸を渡すと二倍かかってしまう材料を、きっと少しでも少なく済むように隣り合わせに刺していったのでしょう。慎ましくありながら、かけた時間に想いを馳せれば大変に贅沢であるという、特別な1枚のように感じられます。
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